サクッと全通

何としても１日も早く全通させないといけないのが山陽本線。

 

山陽本線イチの難所、瀬野駅－八本松駅の復旧工事が全力で進められています。

 

歴史に残る大復旧工事になっています。９月中の開通目標。広島駅から瀬野駅までは明日、開通します。とにかくここを通さないことには、東広島市と広島市とを結ぶことができず、１日の遅れが２ケタ億単位の経済損失になるためです。

 

ここは代行バスを走らせることもできない、西日本有数の交通難所です。並走する国道２号線は未だに狭い１車線のみ。１９７０年代後半から年中、大渋滞、下関－大阪の国道２号線区間中最悪の交通事故多発地点ともなったことから、新国道２号線（２号線バイパス）建設になりました。現在の国道２号線に並走させることは不可能なため、これはこのままとして南側にバイパスを通す工事をしていますが、難工事に次ぐ難工事で遅れに遅れており、最後に残った未開通区間、やはり瀬野－八本松未開通の状態で今回の大雨にやられてしまい、東西交通全分断に至りました。

 

ところで唯一、この区間の新幹線はやられていません。何で？と思われませんか。

 

実は明治の鉄道建設、路線ルート決定時からの話があります。

 

この「セノハチ」、建設当初から、「大雨壊滅」は「想定範囲」でした。何せ鉄道は当初、「陸蒸気」（おかじょうき）、ＳＬ、汽車であって、煙だらけの騒音だらけ、さらには「火の粉が降ってきて火事」であったため、難工事覚悟で、人里離れた、「使えない荒野」を選んで通されました。当初は「壊れたところで大勢に影響はない」という程度の社会的な存在であったためでもあります。ズバリ、「荒野」（あらの）という地名のところも通っており、今回そこはひどくやられてもいます。

 

結局、上述の「公害問題」と戦争要求から、短距離ともなる第二候補の北ルート、セノハチで通されましたが、一方で、「鉄道の将来性」を見抜いていた人も多く、三原から広島まで、地震や水害影響の少ない南ルート、つまり今の新幹線のルートとほぼ同じルートが第一候補として挙がっていました。歴史に「もしも」はありませんが、もしもその「鉄道の将来性」から、南ルートで通されていたならば、ずっと後の新幹線は恐らくは北ルート、つまり、セノハチ超え（より正確には現在建設中の二号線バイパスのルートとほぼ同じ）になり、今回、新幹線がやられることになっていたかもしれません。

 

というわけで、「社会的に極めて重要」と「広く認識される前に」開通した鉄道は、概ね、自然災害に弱いと考えなければなりません。人が住むのにも、農地とするのにも適さないところに作った、要は出水に寒風酷暑・・・の自然災害発生地点を多く通っています。後の鉄道輸送力限界、社会的重要性から作られた「バイパス」、ズバリ、「新しい幹線」＝新幹線は、よって、できるだけ自然災害の少ないところを選んで通しています。だから新幹線が自然災害にやたらに強く、在来線がやたらに弱いという極端な差となっているわけです。

 

また、同じく大きな被害となった「呉線」ですが、これにはまた全く別の話があります。呉線は「軍用鉄道」、「自然との調和設計」は、はじめからされなかったことは想像に難くありません。また、軍用鉄道であったことから戦前の被災記録がほとんどない＝過去の被災状況からの対策が難しいという問題があります。今回の被災が開業以来、実に初めての「弱点全公開」であり、ようやく今後の対策に生かすことができるようになります。

 

さらには呉、呉線沿線は、そのほとんどが軍事機密であり、戦前の自然災害の記録はほとんど残されていません。このことが今回、「思いもしなかったところでの被害」につながってもいます。今回、深くえぐられて露出した「連続した地層」を観て「わっ！」となったところが多くあります。

 

「休山新道」（トンネル）についても、その当初計画の謎が今後、「状況証拠」から明らかにされてくるかもしれません。このトンネルは内務省直轄の秘密工事で、全くと言えるほどに記録がなく、わかっているのは１９４２年に着工され、１９４４年に戦況悪化で工事凍結とされたこと、１５０ｍほど掘り進んでいたことだけです。戦後、それも平成になって、交通渋滞解消用バイパスとして工事再開、開通していますが、つまり、謎であるのはその当時の交通量からすれば、従来の峠道で十分であった、急ぐならば海路で十分であった、さらには呉線もあった、当時、呉は海軍の基地であり、戦車などの大型陸戦用兵器の大量輸送はなかったし、これは船で輸送していた、また計画当時、自動車はまだ貧弱な代物で、自動車による軍需物資の常時大量輸送は考えられなかった、つまりこれといった「必要性」が見当たらないのに、当時、最もカネのかかる、トンネルを掘り始めているというところです。防空壕説、戦闘機格納庫説、弾薬庫説・・・いろいろありますが、計画されたのが太平洋戦争よりもかなり前ということで、これらではどうにも説明がつきません。しかし今回、その旧来の峠道がひどくやられる、そのときに鉄道も港もやられ、陸海路ともに閉ざされることがあるということがわかり、これならば、各種の兵器生産拠点であった阿賀・広地区と基地中心の呉とを結ぶ「防災用道路」が必要であったはずと解釈できます。記録は何もありませんが、大正末期の大雨被害を教訓としたのではないでしょうか。それならば、時系列的にも説明できます。

 

いずれにしても防災は、「過去の被害把握」が重要であり、史料調査と現地調査を柱とし、さらに、例えば鉄道のように、建設当時の社会的状況から、「当然の人災」となるように作られているものもあるということを念頭に置いて進めることが肝腎です。